金利が重要とはわかっていても、具体的な分析方法が分からない方は少なくないと思います。
結論、金利の分析はイールドカーブを通じて行うのですが、今度はイールドカーブを知らないという方もいるでしょう。
そこでこの記事では、イールドカーブの意味から分析方法をお伝えしていきます!
イールドカーブとは?
そもそもイールドとは利回りのことであり、1年間のリターンを指します。100円投資して1年間で105円になれば、利回り5%です。
そしてイールドカーブとは、日本語で利回り曲線のことであり、債券の利回りと満期(償還期間、残存期間)までの関係を示すグラフのことです。
縦軸に利回り、横軸に償還期間を設定することで、利回りと満期の関係を表しています。

イールドカーブの形状
金利市場を分析する際、投資家はイールドカーブの形状をチェックします。イールドカーブの形状は、投資家の将来の金利の見方、経済の見方を表しているからです。
図とともに見てきましょう。
順イールドカーブ
イールドカーブの形状には大きく2種類あります。順イールドカーブと逆イールドカーブです。
順イールドカーブとは、残存期間が短い短期金利が低く、残存期間が長い長期金利が高い状態であり、好景気のときに確認できます。
景気が良い状態ではお金が溢れているため、企業業績が良くなり、株価が上がったり給料が増えたりします。
お金が溢れている背景として、中央銀行が設定している政策金利が低く、企業がお金を借りやすくなっていることが挙げられます。株価が上昇して株主は儲かり、発注が増えて取引先も儲かり、そして給料が増えて社員も喜びます。
政策金利が低いことは短期金利が低いことを意味しているので、短期金利は低く長期金利が高い順イールドカーブが形成されるのです。
政策金利とは?
自国の経済に出回るお金の量を調節する中央銀行は、景気を刺激するときには金利を低くし、景気を抑制するときは金利を高くします。金利を誘導することで、お金の量を調整し景気の方向性を決めるのです。
ここで中央銀行が設定する短期金利の誘導目標が政策金利であり、政策金利の動向が金利相場に大きく影響します。
政策金利とは、景気や物価の安定など金融政策上の目的を達成するために、中央銀行(日本では日本銀行)が設定する短期金利(誘導目標金利)のことで、金融機関の預金金利や貸出金利などに影響を及ぼします。
引用元:三菱UFJ銀行|制作金利
逆イールドカーブ
反対に、景気が後退しているときに逆イールドカーブが発生すると言われています。
逆イールドカーブとは、短期金利が高く、長期金利が低い状態のイールドカーブです。
景気が過熱していると、中央銀行は景気抑制のために政策金利を引き上げます。先述したように、政策金利は短期金利の誘導目標ですから、短期金利が上昇します。
一方で政策金利が引き上げられると、貸出金利が高くなるので企業の資金調達コストは上昇し、業績悪化の要因になります。
投資家は「最近の景気良すぎたもんな。中央銀行が頭冷やせと言わんばかりに政策金利を引き上げたから、将来的(長期的)には景気が落ち込むかもしれない(落ち込んだ景気を刺激するために将来は利下げするかもしれない)」
このように考えるので、長期金利は短期金利よりも低い水準になるのです。
イールドカーブをチェックすることは、投資家心理を読み解くことであり、マーケットの動向を深く考察することにつながります。
イールドカーブの変化(傾き)
イールドカーブの形状が分かるだけでも有意義なのですが、政策金利は毎日どころか毎月ですら変更されません。
つまり、形状を見るだけでは日々のマーケットを読み解く材料にならないのです。(中長期的なトレンドを読む上では重要です)
そのため、日々マーケットが注目している、イールドカーブの傾きの変化について見てきましょう。
イールドカーブは主に6種類の変化(傾き方)があると言われています。
【イールドカーブの傾き方】
- ベア・スティープニング
- ベア・フラットニング
- ブル・フラットニング
- ブル・スティープニング
- ツイスト・スティープニング
- ツイスト・フラットニング
ベア・スティープニング
ベア・スティープニングとは、ベア相場の中でイールドカーブの傾きが急になる(Steepning)ことを言います。
ベア相場は弱気相場を意味し、債券市場にとってのベア相場では、債券が売られ(債券価格が下落し)利回りが上昇します。

安全資産である債券のベア相場ですから、逆にリスク資産である株式によってはプラスの状況と解釈できます。つまり、景気が良い状態であると読み取れるわけです。
ベア・スティープニングが発生しているマーケットでは、次のような予測を立てることができるでしょう。
景気も好調だし、そろそろ景気を落ち着かせるために短期金利の誘導目標(政策金利)を上げちゃうよ。
中央銀行の政策金利の引き上げ示唆から短期金利が上がっているな。でもそれ以上に長期金利が上がっているぞ。
つまり、将来的にも利上げを行える余地があるほど、好景気はまだまだ続くと市場が織り込んでいるな。
リスクオンで良いかもしれない。
ベア・フラットニング
ベア・フラットニングとは、ベア相場の中でイールドカーブの傾きが緩やかになることを言います。

中央銀行が政策金利を引き上げる金融引き締め局面でよく見られ、短期金利が上昇しつつ長期金利も上がるだろうとの予測のもとに発生します。
ベア・フラットニングが発生しているマーケットでは、次のような予測を立てることができるでしょう。
ちょっとちょっと!景気過熱で物価やばいことになってるよ!流石に何回か利上げしちゃうからね!
目先はほぼ間違いなく利上げになるから短期金利が高騰している。
しかも、さらに将来的(長期的)な利上げも示唆されていることからも、長期金利が上昇しているな。
当面金利上昇局面が続くだろうから、そろそろリスクオフしないとやばいかも。
ブル・フラットニング
ブル・フラットニングでは、ブル相場の中でイールドカーブの傾きが緩やかになることを言います。
ブル相場はベア相場の逆で、債券が買われ(債券価格が上昇し)利回りが低下します。

政策金利によって引き下げる短期金利以上に長期金利が下がることであり、中長期的に景気が減速する局面で見れらます。
ブル・フラットニングが発生しているマーケットでは、次のような予測を立てることができるでしょう。
金利上げすぎて景気抑制しすぎたかもしれん。金利引き下げは何回か検討しておくから許してよ。
中央銀行が政策金利の引き下げを示唆しているな。
目先の利下げに加えて、景気が減速しているから長期的にはもっと金利を引き下げるかもしれない。
リスクオンにはなり切れないけど、何か仕込んでも良いかもしれない。
ブル・スティープニング
ブル・スティープニングとは、ブル相場の中でイールドカーブの傾きが急になることを言います。

ブル・スティープニングが発生しているマーケットでは、次のような予測を立てることができるでしょう。
景気がピンチ。流石にごめん。政策金利がっつり引き下げるつもりだから機嫌直して。
中央銀行が政策金利の引き下げようとしている。短期金利は大きく下がってるし、長期金利もやや低下している。
目先の利下げに加えて将来的にまだ金利が低下すると解釈されているから、景気後退局面になるのかな。
リスクオフにならないと。
これまでの流れをまとめると、イールドカーブと景気の流れが次のようになります。

景気循環とイールドカーブは密接に関わっているので、金利や株式との関係を覚えておくと良いでしょう。
また、イールドカーブの変化としては他にもう2種類あります。
ツイスト・スティープニング
ツイスト・スティープニングとは、短期金利が低下する一方で長期金利が上昇し、イールドカーブがねじれる(ツイスト)ように変形することを言います。

目先は政策金利の引き下げが期待されていることで短期金利が下落してはいるものの、より先の将来では政策金利の引き上げが見込まれているため長期金利が上昇します。
ツイスト・スティープニングが発生しているマーケットでは、次のような予測を立てることができるでしょう。
ちょっとだけ景気を良くしたいから、目先1回ぐらい利下げするかも。
中央銀行のやんわりな利下げ意識が短期金利に反映されているな。一方で長期金利は上がっているから、景気は回復するだろう。
なにか仕込んでおいても良いかもしれない。
ツイスト・フラットニング
ツイスト・フラットニングとは、短期金利が上昇する一方で長期金利が低下しながらイールドカーブが水平下することを言います。

目先は政策金利引き上げが期待されていることで短期金利が上昇し、より先の将来では景気減速が起こり金利は下がるだろうと見込まれている状況です。
ツイスト・フラットニングが発生しているマーケットでは、次のような予測を立てることができるでしょう。
ちょっと景気を落ち着かせたいかも。利上げしようと思うけど、1回ぐらいかな。
目先の利上げが示唆されているとはいえ、今の景気はそこまで強くない。しかも長期金利も下がっているから、まだまだ景気減速は続きそう。
様子見かな。
イールドカーブの変動要因
次に、イールドカーブの変動要因をお伝えします。
様々な要因がありますが、主な要因は次のとおりです。
【イールドカーブの変動要因】
- 政策金利
- 景気動向
- 財政政策
政策金利
イールドカーブの形状変化に最も大きくな影響を与えるのは、中央銀行が決定する政策金利です。
政策金利によって金利市場が変動するのは、縦軸に利回りをとるイールドカーブの性質上当然と言えば当然ですね。
政策金利の変更が決定した際はもちろんですが、変更が示唆されるだけでも金利市場は大きく変動するので、中央銀行の動向は要チェックです。
米国(FRB)のFOMC、日本(日本銀行)の日銀金融政策決定会合、欧州(ECB)の政策理事会は確認しておくと良いでしょう。
景気動向
景気動向もイールドカーブのに影響を与えます。
景気が悪ければ景気刺激のために利下げが行われることが予想されるため、イールドカーブは下方方向に動くでしょう。逆に景気が良すぎれば景気抑制のために利上げが予想されるため、イールドカーブは上方方向に動くはずです。
景気動向は経済指標を通して確認することができ、GDP、ISM製造業景況指数、消費者物価指数、雇用統計などを確認すると良いでしょう。
特に、物価と雇用に関する経済指標は米国の金融政策に大きな影響を与えるので、必ずチェックすべきです。FRBの金融政策の目的に、雇用最大化と物価の安定が掲げられています。
“conducts the nation’s monetary policy to promote maximum employment, stable prices, and moderate long-term interest rates in the U.S. economy”
「雇用の最大化・物価の安定・穏やかな長期金利を目的として、国の金融政策を実施する」
引用元:Federal Reserve Board
財政政策
財政政策とは、政府が歳入や歳出を通じて行う政策のことです。
ここで重要なのは歳入面であり、政府は税収で賄えない歳出を国債発行によって補っています。
赤い部分の公債金とは、国が税収の不足を補うために発行する、債券により借りられた金額のことであり、国債発行額の決定要素となります。
このように、財政政策に必要な資金を補うために毎年国債は発行され、国債の入札によって消化されていきます。
入札では、まず財務省が「いつ、どんな国債を、どのくらい発行するのか」を告知します。その上で、プライマリーディーラーと呼ばれる大手金融機関の意見(=マーケットの動向)を踏まえて、利率を決定します。そして、実際に購入された価格によって利回りが調整されていきます。
利回りが調整されるので、当然イールドカーブの形状にも大きな影響を与えるのです。
ちなみに、入札結果は財務省の「入札カレンダー」で確認できるので、実際に見てみると良いでしょう。
ただし、難しくてよく分からないと思うので、国債の入札や金利市場への影響については、今後別の記事にて詳細に解説していきますので、是非サブスクにご登録の上お待ちくださいませ!
まとめ
金利市場は株式、為替、コモディティ、不動産などあらゆるマーケットに影響を及ぼします。
他にもイールドカーブ関する記事もありますので、併せてご参考ください。
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